ファンタジア

ブレス2

 前回俺はリットと言う女の子の後をついてきて人生で始めて興味本位で近づいて痛い目にあいそうな予感がしていた。なんて言ったって人食いに食われるかもしれないのだから。
「リットちゃんの師匠って、人だよね?」
「そうですよ? どうかしましたか? 顔が青いですよ?」
 俺はホッとして、そう?なんて曖昧な返事をして彼女の後を付いて行った。彼女は小さな家の扉を開けた。
「ただいま帰りました。先生! お客様つれてきました。こちらブレスさんです」
 日向で椅子に座り静かにこちらを見た。背は小さく背中は曲がり、全身を覆うローブを着ていた。こんな小さな体からあんな気配を発していたなんてこのばあちゃん何者!??
「ほう、これはめずらしい人がいらしたな……近くにいらっしゃい」
 俺は恐る恐る近づいていきばあちゃんの前に椅子を用意してもらい座った。そしてばあちゃんは俺の冷えた手をとり暖めるように俺の手を覆った。
「さっきばあちゃん“めずらしい人”って言ったよね? どうゆうこと?」
「おまえさんの目と髪がめずらしい。そして私はこうして触れたりするとその人の心が見えてくるのさ。信じるかい?」
 フードの奥から視線を感じた。その目は俺の心を見透かしているような遠くを見ている眼に見えた。手を離したくなる。心をさらけ出されるなんておぞましい。
「見える。おまえさん自分を見間違えているよ。周りと違うと思ったことないのかえ? ……おまえさん過去の記憶を失ってしまっているな?」
 俺は背筋が凍る思いがする。早く手を離したいのに体がばあちゃんにおさえこまれているような気がして動けなかった。ただひたすらばあちゃんの口から紡ぎだされる一言一言聞かされることになった。
「何言い出す? なんで……???」
「知ってると言いたそうだな? だまっておれ。そうすれば心の霧を掃ってやろう。……しかしこの国にはもういないと思っていた。いや、この大陸にもいないと思っていた」
 俺には何を言っているのか掴めなかった。そして俺の体温は下がり背筋が凍りはじめる。
「おまえさんは今まで他の弟子仲間と違うと感じたことはなかったかい?」
 違う所なんてない。強いていえば体力がないくらいだ。……ん? なんで弟子仲間のこと知ってる?? 本当に心を覗かれているのか? 俺はばあちゃんか目を逸らそうとするがどうにもならない。
「やめろ……見るな! 見るなっ!! 離せ手を離せっ!!」
 逆に強く握られた。ばあちゃんの目が俺を依然捉え続けチカチカと何か光を発している。俺の頭はグラグラと平行線を失い、何かを見ているのか、それとも何も見ていないのか分からなくなる。ただ目の前がゆったりと動いていて光が優しく包むようだった。この流れの中に身を放りだしたい。しかししきりに最後の一線で警告を発しているのだ。身を委ねてはいけない。委ねてしまえば崩壊するぞと奥の方でズキズキと警告している。
「ブレスよ、いつまで閉じ込めとくんだ?? お前の本当の能力はそんなものではない。何を迷う?なぜ閉じ込める? 恐れるな」
 ばあちゃんの声が響く。この流れに身をまかせてしまおう。そして俺は警告をおしきりこの優しい光に身を委ねると、突然体中が熱くなる。俺の体は支えを失い椅子ら落ちる。しかし今の俺にはそんなことわからなかった。痛みより熱かった。俺の口からはうわ言のように熱い熱いと言っていたらしいが、やはり今の俺には分からないのだ。血が沸き立ち体中を激しく駆け巡るようだ。
「先生これはいったい……ブレスさんがこんなに震えて! 何をなさっているですか!?」
「触るな! 案ずるな。今消えた種族の覚醒が始まる」
「消えた種族? どういうことです?」
「この男、竜人なのだ。この瞳の色と、髪の色。まさしく竜人の特徴だ。気配の察知や耳のよさ、目の良さは獣並でな。そしてなにより背に翼を持ち竜に姿を変える。しかし、彼等はこの大陸から姿を消した。その後竜の姿も消え始めているのだ」
「なぜ居なくなってしまったのですか?」
「それは……この男が探すはずだ。あの事件のことは語れぬよう封印されている」
「みんなにですか?」
「みんなにだ。その当時のビショップが行った」
「……ブレスさん……。頑張って……」
 俺にはリットちゃんとばあちゃんがそんなやりとりしていたなど聞こえるはずもなかった。そして俺の体には異変が起こりはじめていた。背中には熱が集まり初めていた。体の組織一つ一つが活発に動いているのがわかる。いよいよ熱が最高潮に高くなり痛みも伴うようになり始めていた。俺はうなされ口から痛みを訴える声が出ていた。リットちゃんについてくるのではなかった。このまま俺が俺えではなくなってしまいそうだ。メキメキと体中が音をたてている。今俺になにが起きているのか???
「先生!!! 翼が!」
 いよいよ俺の覚醒は終わりを告げようとしていた。

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