ファンタジア

アルフェリア25

 一試合目を無事に終えた次の日。
 アルフェリアは第二回戦にでるためにコロシアムに向かっていた。
 時間は昨日と同じく朝方。今日は早めに行ってレイチェルを探してみたのだが……やはり彼女の姿は見られなかった。
「まさかレイチェルさんが一回戦で負けるわけないよねぇ?」
 呟き、参加者の名前を確認してみる。本名で出ているとは思っていないが、こうなってくると少しばかり面倒ではある。
 本当に対戦のときまで会えなかったらどうしよう。
 その考えに苦笑し、せめてそれらしき人を見なかったか周りの人に聞いてまわることにした。幸い自分の試合まではまだもう少し時間があった。

 手当たり次第の聞きこみの結果、どうやらレイチェルは一回戦で大活躍したらしく、そのおかげでレイチェルの試合は昼間になったらしい。
 ついでにレイチェルが名乗っている偽名も知ることが出来た。……が! 良く考えたら名前がわかっても試合前や後でレイチェルを捕まえるのは難しいだろうし、この街は大きい。宿屋も多いのだ。
 せめて試合の時間が近ければなんとかなったんだけどなぁ。
 ぽけっと考え事に没頭していると、ふいに自分の名が呼ばれた。どうやら何回も呼ばれていたらしく、その声は不機嫌っぽかった。
「あ、はいはーいっ。ごめんなさいっ」
 慌てて試合会場に向かうと、対戦相手はもうそこにいた。
 審判は二人が揃ったことを確認し、試合開始を告げた。
 昨日は急いでいた都合上いきなり大技で終らせてしまったが、今日は急ぐ理由はない。
「んっと……なんにしよっかな」
 ぶつぶつと言いながら宙を眺め、まるで対戦相手のことなど目に入ってないその口調と態度に相手の選手 ――審判の紹介をよく聞いてなかったものだから名前は知らない―― は怒りも露に詠唱をはじめた。
 アルフェリアは呑気に自分の使える魔法を指折り確認して何を使うか選んでいたりする。
「フレイムっ!」
 詠唱の最後の一言が聞こえてくると同時に火球がこちらに飛んでくる。
 が、それはアルフェリアに当たる前に霧散し、消えてしまった。
 対戦選手がぎょっとした顔でこちらを見る。
 実は最初っから防御魔法を使っていたのだ。
「んもうっ、ちょっと待っててよ。せっかくだし実験してみようと思ってんだから」
 ランディ家にいた頃、暇だからと組みたてたオリジナルの魔法やらアレンジ魔法やらが、まだ一度も使われずにいるのだ。せっかくだからそれらを使ってみようと思っていた。
「きーめたっ♪」
 にっこりと笑って、それから呪文の詠唱をはじめる。そして……
「アイスソードっ!」
 アルフェリアの手に氷の剣が現れた。
「はっ、剣なんか出してどうするんだ。剣で闘おうってのか? ソーサレスが」
 馬鹿にしたような言葉をむけ、再度呪文の詠唱をはじめる。
 アルフェリアはゆっくりとそちらに向かって歩いていった。
 その間にも何度か相手の魔法がこちらに向かってきたが、最初の防御魔術の効力はまだ消えておらず、すべてアルフェリアに当たらずに消えてしまっていた。
 彼の目の前に立ってから、アルフェリアは子供っぽい、無邪気な笑みを見せた。
「残念ながら、僕はソーサレスじゃなくってナイトなんだ♪」
「はぁっ!?」
 呆気にとられて思わず声をあげる対戦相手。そしてアルフェリアから離れようとする。けれど、ナイトとして修行を積んできたアルフェリアの体術とソーサレスである相手との体術は天と地ほどの差があった。
 剣が相手に触れた瞬間。相手の服が、体が、剣を中心に凍り始めた。
 向こうは慌てて離れようとしたが、すでに凍りついた体は言う事をきかなったらしい。
 焦った様子で、動く部分だけで必至にもがいていた。
「………………つっまんない」
 アルフェリアは小さく呟く。多分目の前にいた対戦相手にしか聞こえなかっただろう。
 向こうが動けなくなったことで勝負はついた。審判が試合終了を告げる。
 歩きながら、アルフェリアは頭の後ろで手を組んで、おおげさに溜息をついた。そして聞こえよがしに言う。
「あ〜あっ、戦士部門の方が楽しかったかも。皆弱いんだもんっ」
 周りの選手がじろりと睨んだがお構いなしである。
 実際、アルフェリアの魔法の実力はかなりのもので、年齢やブランクなどまったく感じさせない。それに加えて剣術まで使えるのだ。
 剣術はまだまだの部分も多いから戦士部門ならば負ける可能性だって結構高い。少なくとも、ルークやルンドとぶつかったらまず100%負けるだろう。だからこそ、戦士部門のほうが楽しめたかもしれないと思うのだ。
「まぁいいや。せっかくだから思いっきり実験場にさせてもらおうっとv」
 まだ使ったことのないオリジナル魔法やアレンジ魔法は山ほどあるのだ。
 周囲の選手の視線などものともせず、アルフェリアは泊まっている宿に戻っていった。

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