ファンタジア

アルフェリア13

 賑やか……というよりは騒がしい夕食を終えて、アルフェリアは部屋に戻ってきていた。
 最初に頭に浮かんだのはこれからどうしようか、ということだ。
 せっかく見つけた目的ももう無くなってしまった。くだらない目的かもしれないが、それでもなにも無いよりはマシだ。
「どうしよう……」
 ほんの数週間の一人旅で、痛感していた。
 自分には一人旅はまだ無理だと。
 足手まといになるのは嫌だ。そんな理由で、ほとんど家出みたいな感じで師のもとを出てきた。
 けれど一人でいると、二人でいる時よりも心動かされることが少なくて……二人で居た時ならば楽しいと感じていただろう事、笑っていただろう出来事。そんな事があるたびにアルフェリアは恐怖を感じた。
 昔、感情というものを忘れていた頃の冷たい感覚が戻ってきそうで。
 誰かに頼んで一緒に居させてもらおうか。
 そんな風にも考えた。
 師と居る時は目的や目標なんていちいち考える必要は無かった。一緒に居るだけで充分だったからだ。
「あ〜あ……やっぱり、僕にはまだ無理だったのかな」
 そう呟いた直後、思いっきり首を横に振った。
 自分で決めた道ではないか、師から離れてやっていくと。
 アルフェリアは大きく溜息をついて、その日は眠れない夜を過ごした。

 

 翌朝、階下に下りるとフォルクスが戻ってきていた。どこに行っていたのか知らないが、昨夜は宿に戻ってこなかったのだ。
 どこか、様子がおかしいように感じられた。
「あ〜、フォルクスさ…………ん……?」
 さすがにレイチェルも気付いた様だ。
 とりあえずその様子を眺めていると、フォルクスはレイチェルの前で深く、礼をした。
 普通の礼ではなく、下の身分の者が上の身分の者に対して行うようなものだ。
「これまでの、ご寛容に付けこんでの数々のご無礼を、謹んでお詫び申し上げます。願わくば、寛大なるご慈悲をもって、お許しいただけますよう、お願い致します」
 アルフェリアは目を丸くして、その光景を見つめていた。
「一体どうしたんだ?」
 しかし、フォルクスはその問いに答えてくれなかった。
 ルンドが何か言ったのかと思って尋ねてみたが、あれが普通じゃないかと返されただけだった。
「普通……ねぇ」
 確かに公式の場ではそれは当然の対応だろう、けれどここはラジアハンドからも離れた、その辺の安宿だ。
 アルフェリアはルンドと喧嘩するつもりはなかったから特に言わなかったが、実際にはルンドの意見に反対だった。
 レイチェルはラジアハンドではビショップという高位の人間だが、ここはラジアハンドではないし、彼女を知っている人間だってそうはいない。
 たとえ王様だろうが、本人がその地位から離れた場に居るならば王様としては扱わない。
 それがアルフェリアの考え方だった。
 そして、それは自分の血に対する抵抗でもあった。自分の中にランディ家の血が流れていることは変えようのない事実。けれど、自分はランディ家の人間でいたくない。

 全員に今後どうするか聞いてみるつもりだったのだが……今のフォルクスはとてもそんなことを聞ける雰囲気ではなかった。
 仕方ないので、とりあえずフォルクス以外の人に聞いてまわることにした。

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